秘書と行く四川と重慶 Part2 火鍋には勝てない気休めのスアスア

Part1 夜空の辣椒醤と取ってこない犬より

「おもてなし」という言葉があります。

オリンピック招致のプレゼンで使われて以来有名になりましたが、お客さんをもてなしたいと思う心は、日本人にしかないというわけではありません。
その心がどんな形で表現されるかは、国によっても違えば、人によっても違うでしょう。
秘書のお母さんにとって、それは「食べ物」で表現すべきものだったようです。

四川の食べ物に恐怖心をいだいていた室長は、次から次へと食卓に繰り出される大きな皿に困惑するばかりでした。
はじめはおそるおそるでしたが、食べて見るとどれもおいしい。
辛いものばかりではないし、辛い料理も食べられないほど辛いわけではない(手加減してくれていたのかもしれませんが)、ということがわかったので、どんどんいただきました。

日本とちょっと違うなと思ったのが、はじめから食卓にご飯が並ばないことです。
日本人はご飯とおかずを同時に食べたい人が多いと思いますが、秘書宅ではまずおかずを食べる。
そして、なんとなくご飯食べるかな? という雰囲気になってから、ご飯が出てくるシステムでした。
そして、出てきたご飯を、おかずと一緒に食べるのです。
日本式に慣れている人にとっては、腹の具合を調節するのが難しい方式でした。
(これは秘書の家だけかもしれないとのことです)

秘書の母のおもてなしは、家の外に出てもやはり食べ物がメインです。

これは、徳陽市の中心部にあるいかにも中国っぽい趣きのフードコートのような場所です。

秘書のお母さんが色々と買ってきてくれます。
写真は、ハマグリの身と春雨の料理。美味しいです。

そして、その日の夕方。

ついにこの時が訪れてしまいました。
秘書の父母、おじさん、おばさん、アニキ、そしてワイルド研室長で、火鍋を囲みました。

これが本場四川の火鍋(フォグォ)です。
テーブルの真ん中でグラグラと煮え立つその赤い汁は、まるでこちらを威嚇しているようです。

一通りはじめましての挨拶が済むと、まずは油を取りに行きます。
席から少し離れた場所に、ファミレスのドリンクバーやサラダバーのように、薬味と油を置いてあるテーブルがあるのです。
薬味はネギなど見慣れたものから、いかにも辛そうなものや、ピーナッツを砕いたものもありました。
それをお好みで小皿に入れた後、その上からドバドバと大量の油を入れます。
火鍋の中から取り出した肉を、この油につけて食べるのです。
かなり警戒しながら一口食べると、
「あれ? 意外と辛くない」
辛いだけでなく、味わいがあって美味しいのです。
ですが、調子に乗って食べていると、5口目には口の中が痛くなり、10口目には唇まで痛くなってきます。
苦しい顔をしていると、茶碗に盛ったご飯を差し出されました。
ああ、そうか、ご飯を食べれば少しマシになるかな、と思っていると
「それ食べないんだよ」
と秘書から注意を受けました。
「じゃあ何のためのご飯なの?」
と訊くと、鍋の中の具を取り出した後、ご飯の上でポンポンとして、辛さを落とすためのものらしいのです。
試しにやってみたのですが、もうすでに口の中が辛くなっているので、あまり効果がありません。
すると今度は、お湯の入った小鉢がこちらに差し出されました。
「これは何?」と訊くと。
「スアスアするんだよ」と秘書。
語感から察するに、鍋から取り出した具をそのお湯の中にくぐらせて、辛さを落とすためのものらしいです。
なんとなく味を変えるようなことをするのは、鍋を作った人に申し訳ないな、と思いながら、スアスアして鍋の具を口に運びました。
でもやっぱり、もうすでに口の中が辛くなっているので、あまり効果がありません。

あまりに室長が苦痛な顔をしているので、押しの強い中国の方々も、あまり勧めるに勧められない雰囲気になってきて、最終的には「あんまり無理しなくていいよ」という空気になりました。

辛さに加えて、もう1つ面白い(怖い)なと思ったのが、鍋に入れる具の種類です。
いわゆる普通の肉も入っていますが、内臓系もどんどん追加されていきます。
モツのような消化器系はいいのですが、肺が入っていたのには驚きです。
それから、写真の赤黒い塊は、鴨の血の塊だそうです。

秘書のアニキは、
「うまいから食べてみなよ、本当だよ」としきりに勧めてきます。
ですが、最初に「血の塊」と聞いてしまった室長は、端の方を少しかじって、ウンウンと大きく頷いて、なんとなくごまかしたのでした。

意外だったのが、意外と早くこの会が終わってしまったことです。
鍋といえば、日本人の感覚だと2、3時間滞在することが多いように思うのですが、この日は1時間ちょっとでお開きになってしまいました。
本場中国の人たちにとって、火鍋はサッと食べて帰る料理のようです。
室長が苦悶の表情を浮かべていたからでなければいいのですが、周りの客もすっかりいなくなっていたので、やはりあまり長居はしないようです。

翌日の朝、朝食を食べるからと言われ、外に連れ出されました。
入ったのは包子(バオズ)や中華麺を出すお店でした。
中国の人たちは、このような小さい食堂のような所で朝食をとる人が多いようです。
値段は非常にリーズナブルで、写真に写っているバオズ8個でたった100円です。
このバオズは、要するに肉まんのようなものですが、日本のコンビニで売っているものよりも皮がしっかりとしていて、中身もほかほかでとても美味しかったです。
中国滞在中に何度も食べました。
ただ気になるのは、その値段のこと。
バオズ屋さんは、こんなに安く売って生活できるの? と秘書に訊くと、
「バオズ包んでるおばちゃんはめっちゃ早いから大丈夫」
だそうです。

恐るべし中国。

*   *   *

一通り中華料理の洗礼を浴びたあと、徳陽から一度出て、重慶という所に向かうことにしました。
徳陽からは新幹線のような特急列車で3時間ほどの旅になります。
直接行くルートはないので、四川省の中核都市である成都で一度乗り換えます。

ネットの発達した中国では、列車の座席予約も、オンラインで簡単にできます。
ただ、外国人旅行者にとってちょっと面倒なのは、パスポートがないと切符を発行してくれないこと。
中国人は自動発行機に行くとすぐに切符を手に入れられるのですが、外国人は窓口に行かないともらえないのです。

手で隠しているところには、乗客の名前が一人一人書かれています。

荷物検査をして入った構内は、非常に広くキレイに管理されていました。
電車の来るホームには、定時の10分くらい前にならないと入れないルールになっていて、自動改札の前に乗客が列を作って待っています。

ホームもがらんとしていて、かなり広いです。
上の写真は「徳陽駅」という意味ですが、「駅」のところだけ、英語にすると情報量多すぎだなぁと思いながら写真を撮りました。

さあ、電車が来ました。
出発です。

Part3に続く。

 

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