スリランカDay5 世界の果てと地獄の山下り

Day4海の猿・山の猿より続き

* * *

人は誰しも、美しい山の風景に魅了される。
険しい山道を、息を切らして歩いた後に目にした絶景は、私たちに忘れられない感動をもたらしてくれる。
しかしながら、ときにその挑戦には危険が伴う…

最後まで、決して気を抜いてはならないのである。

* * *

この日も、出発時刻は早い。
自然のアクティビティは、どうしても早朝の時間になりがちです。
トゥクトゥクの運転手は、予定通り5時に迎えに来てくれました。
ゲストハウスの優しいお父さんが、あらかじめ連絡しておいてくれたのです。
山の上ということもあり、海の近くにいた時とはうってかわって、気温は15℃を下回り肌寒い…
トゥクトゥクの運転手さんもネックウォーマーをしていました。

これが、人生で初のトゥクトゥクでした。
おもちゃみたいな見た目なので、正直どうなのかなと思っていましたが、乗り心地は案外悪くありません。
あたりはまだ真っ暗で、トゥクトゥクのフロントライトが照らしている数メートル先までしか、後ろに乗っている2人には見えません。
運転手さんは、陽気な鼻歌を時々はさみながら、小さなハンドルを自在に操って、くねる山道を右へ左へと登って行きます。

この日は予定が多め。
まずは、ホートンプレインズ国立公園。
スリランカの高地にしかない貴重な生態系を見ながらの9kmのハイキング。
それから何と言っても、ここは「World’s end(世界の果て)」という、絶景がある場所として有名なのです。
ワイルド研秘書が一番楽しみにしていたスポットです。
その後は、前日に激しい雨のため断念した紅茶工場を見学し、さらに次の宿泊地であるキャンディ(Kandy)までバス移動というややタイトなスケジュール。
本当にこなせるのか、少し不安でした。

トゥクトゥクに揺られること1時間と少々、周りがだんだんと明るくなって来ました。

トゥクトゥク内から見た日の出。
運転手さんが止まって見せてくれました。

国立公園の入り口に着くと、まず管理事務所のようなところで、入場料とトゥクトゥクの駐車料金を払います。
ハイキングコースのスタート地点まではさらに数キロあるので、もう一度トゥクトゥクに乗り込み、さらに数分進みます。
山の中なのですが、「プレインズ」という名前の通り、平原も混じったような不思議な地形です。
間違いなく日本では見られないでしょう。

朝日の中、鹿たちがお出迎えしてくれました。

入り口に到着すると、いよいよハイキング開始です。
トゥクトゥクの運転手さんには、3時間後くらいに戻ってくるという約束で、待っていてもらいます。
少し前まではキレイに晴れていたのですが、だんだんともやがかかってきて、ちゃんと世界の果ての景色を見られるのか、不安に思いながら歩き始めました。

もやの中を歩き始めた。
風も強くなって来て、肌寒さが増してきます。

小鳥もボッハボハ。

1周すると一通り公園内を見られるようになっている。

平原があったと思えば、木がかぶさってくるような山道も。

ゴツゴツした岩場の道も。
険しい道に難儀し、予想以上に時間がかかってしまう。

花たちも濃い霧に濡れています。

やがて、少し開けたところに出ました。
看板があり、「Little World’s end」と書いてあります。
この国立公園には、「本物の」世界の果ての他に、もう一つ「ちょっと小さい」世界の果てがあるのです。
しかし、天気は悪くなる一方。
濃霧のため、景色は何一つ見えません。

「ちょっと小さい」世界の果てでビビる室長。
霧で視界が全くないのが、逆に怖いのです。

どこからともなくカラスが飛んできて、看板の上に止まりました。

まっすぐの方向は「DANGER」
World’s endに行くには「右」

と書いてあります。

カアカアと不気味に鳴くカラスは、何かを警告するかのようです。

勇気を振り絞って先に進みます。
景色を楽しみにしていたワイルド研秘書は、この天気でかなり残念そうです。
しかし、「本物」はまだ先。
とにかく信じて、足を進めました。

再度、開けた場所に出ると、看板に「World’s end」の文字が。
今度こそ「本物の」世界の果てに到着したようです。
しかし、天気は晴れることなく、濃霧が辺りを包んでいます。
仕方がないので、ゲストハウスの方に朝食用にいただいたリンゴを食べながらしばしの間休憩です。

霧の中、「世界の果て」に姿を現したセイロンヤケイ。
こんなところで会うなどとは予想だにせず。
この鳥のお陰で、風向きが変わったのかもしれません。

到着してから10分ほど経った頃でしょうか。
立ち込めていた霧が、急に晴れてきました。

世界の果ての風景が、目の前に突然現れたのです。

ここは、はるか下まで切り立った崖になっています。
下には小さく村が見えます。
この遠近感は、写真ではどうにも表現のしようがありません。
とにかく、1歩先には、信じられないほど下の景色があるのです。

遠くの景色も、美しい。
ワイルド研秘書は大満足です。

帰り道も晴天が続き、秘書は上機嫌。
ぬかるんだ道で滑って尻もちをつき、ズボンがドロドロになってしまっても、
「コロンボしちゃったー」
と日本語のダジャレをかますほど、心に余裕があります。
(*コロンボ: スリランカ最大の都市の名前)

野鳥たちも、太陽を心待ちにしていたようです。

木の茂る道では、リスに出会いました。

ベイカーズ・フォールという滝もしっかりと見てきました。

すべての名所を見終えたところで気になってくるのが、トゥクトゥクの運転手さんとの約束です。
ワイルド研秘書は、待ち合わせ時間のことをかなり気にしています。
というのも、ネットの書き込みによると、中国人観光客が運転手さんとの約束の時間に30分くらい遅刻してしまったため、運転手さんがどこかに行ってしまったという話があるらしいのです。
ここまでにかかった時間とこれから歩かなければならない距離を考えると、確実に遅れてしまうペースなのです。
最後の2〜3キロは、時計を見ながらひたすら先へ先へと歩くことになりました。

帰り道、晴天の中をひたすら歩く。
暑い。
部活のサーキットトレーニングのようでした。

汗だくになりながらハイキングコースの入り口に到着すると、出発からちょうど3時間ほど。
トゥクトゥクの運転手さんが、笑顔で迎えてくれました。

ハイキングコース入り口には、鹿が多い。
立派な角だ。

「世界の果ては見えたか?」
運転手さんに訊かれ、よく見えたと答えると、彼も満足そう。
帰り道では、山からの風に運転手さんの鼻歌が心地よく乗っていきます。

チェックアウト時間は過ぎていたのですが、一度ゲストハウスに戻り、新しい服に着替えます。
宿の方は、着替えるための部屋をこころよく貸してくれました。
出発する時には、お母さんと息子さんが笑顔で外まで送ってくれて、最後まで最高のおもてなしでした。

ゲストハウスからバス停までは歩いて5分ほど。
バス停付近で簡単な食事などを取ろうと思っていました。
しかし、ここで突然雨が。
屋根のあるところでゆっくり食事をとりながら雨が止むのを待っても良かったのですが、ワイルド研秘書はなぜか先を急ごうとバスを探しています。
案内所のおじさんに紅茶工場の名前を告げると、すぐにバスを探して乗せてくれました。

乗り込むとすでに満席で、通路に立っているしかありません。
バスはやがて動き出し、山道を下って行きます。

ある程度予想はしていたのですが、このバスの運転がものすごい荒さだったのです。
乗客にかかる横Gなど気にもかけず、曲がりくねった山道をガンガン攻めて降りて行きます。
座席の上の荷物置きに掴まって、なんとか他のお客さんとぶつからないように必死です。
やがて車掌のお兄さんがお金を集めに来ましたが、財布からお金を出すのが大変でした。
お兄さんに、降りたい紅茶工場の名前(マックウッズ)を言って料金を払いました。
この時こちらとしては「到着したら教えてね」という気持ちで言ったのですが、どうやらそこまでは伝わっていなかったようです。

乗車から10分ほどで、ワイルド研室長の体に異変が起こりはじめます。
右へ左へ、ランダムに揺さぶられたため、気分が悪くなってきたのです。
はじめは「ああ、酔ってきたな」という感じだったのですが、だんだんと腕が痺れたような感覚になってきました。
「これはひどいな」と思ったのですが、目的地までは30分ほど。
まあ、我慢できるだろうと高をくくっていました。

しかし、いくら待っても紅茶工場に到着する気配がありません。
気分はどんどん悪くなってきます。
やがて車掌のお兄さんが近づいてきて、外を指差しながら、
「マックウッズだよ」
と言ってくれました。

ああ、もうすぐ着くのか、と安心したのですが、バスが止まる気配は微塵もありません。
相変わらずの横揺れです。
この時室長は、経験したことのない感覚におそわれていました。
胃と食道が痺れてきたのです。
胃や食道にそんな感覚を感じる機能がついているのかわかりませんが、その時は冷静に分析する余裕もありませんでした。

いつ終わるとも知れない、右左右左の繰り返し。
もう確実に30分以上は乗っているはずでした。

本当に限界だと感じ、降ろしてもらおうと言いだそうと思った時、バスが止まりました。
目の前のお客さんが、私たち2人に向かって
「紅茶工場についたぞ」
としきりに言っています。
どうやら他のお客さんがバスを止めてくれたようです。

お礼を言う余裕もない中、バスから転がり落ちるように降りて、紅茶工場と思われる場所の駐車場に座り込みました。
外国に来て、激しい車酔いになることほど心細いことはありません。
駐車場に座ってしばらく休んでいましたが、また雨が降ってきてしまったので、工場内の喫茶スペースに入って休むことにしました。
ワイルド研秘書も、少し酔っていたようでしたが、すぐに回復し、お茶の入ったケーキを食べていました。

この場所は、Bluefield Tea Gardensという紅茶工場だということがわかりました。
目的だったマックウッズは、通過していたのです。

少し休めば治ると思っていた車酔いでしたが、一向に回復しません。
秘書もケーキをゆっくり食べてくれればいいものを、一瞬で平らげてしまったため、落ち着いて休むこともできません。
(後に「だって、ハエがいっぱいいたんだもの」と弁明していました)

むしろ何か口にした方が良いかと思い、2階のカフェテリアで少しカレーを食べましたが、めまいはどんどん酷くなるばかり。
とうとう、室長はテーブルから立ち上がることができなくなってしまいました。
秘書が呼んでくれたウェイターさんに支えられながら、室長は従業員控室に連れられて、ベッドで休ませてもらうことになりました。

異国の地でぶっ倒れる室長とこっそり撮影をする秘書。

楽しかった午前中のハイキングから一転、室長の体に何が起こったのでしょうか?

 

Day6に続く。

「スリランカDay5 世界の果てと地獄の山下り」への3件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です