人気者はつらいよ -人気動物と絶滅の関係-

うし
ぶたくん、眠そうだねぇ。 

ぶた
こういう顔なんです。

うし
そう言われると、つっこめないな!

ぶた
もうちょっと、シャキッとした表情を見せられれば人気者になれると思うんですが…

うし
中身も伴わないとね。
でも、人気者になりたいのかい? 

ぶた
そりゃあ、人気がないよりはあった方がいいでしょう?

うし
 人気者には、人気者なりの苦労があるんだよ、きっと。

アルパカ
その通りだよ。

うし
あっ、アルパカ先輩! 

アルパカ
動物の人気と生息数の関係を調べた、最近の調査を紹介するよ。

アメリカやヨーロッパの研究者からなるグループは、ある疑問を提起しました。

トラやゾウ、パンダは、動物園で多くの人を集め、キャラクターとしても人気があるのに、どうして絶滅の危機から脱することができないのだろう?

野生動物の保全活動では、多くの人の注目を集めるため、人気のある動物を前面に押し出してPRすることがあります。

名前も聞いたことがないマイナーな動物を保護する重要性を訴えるよりも、一般にも知られている動物をマスコット的に利用することで、寄付金を集めることができ、マイナー動物にもその資金を回すことができるからです。

しかし研究者たちは、人気動物でさえ絶滅の危機から救うことができていない現状を嘆いています。

そこで、あらためて問うたのです。

人気動物でさえ救えないのはなぜか?

 

研究者たちは、野生動物が社会からどう受け入れられているのかを調べることにしました。

10種類のメジャーな野生動物を選び、人気ランキングを作ったのです。

使ったのは次の4つの方法です。

  1. インターネット上でのアンケート調査
  2. フランス、スペイン、イギリスの小学校でのアンケート調査
  3. 世界100大都市の動物園で展示されている動物の調査
  4. ディズニーやピクサー映画のカバーに登場する動物の調査

これらの結果を総合して、欧米における人気動物ランキングを作成しました。

その結果は、次のようになりました。

1位 トラ
2位 ライオン
3位 ゾウ
4位 キリン
5位 ヒョウ
6位 パンダ
7位 チーター
8位 ホッキョクグマ
9位 オオカミ
10位 ゴリラ

ぶた
トラが1位かー…
やっぱり強そうだものなぁ。

うし
キリンも結構人気だね。 

アルパカ
この10種の動物たちは、実は野生の個体数が減っている種ばかりだって知っていたかい?

ぶた
そうなんですか? 

うし
有名動物ばかりなのに…
そんな状況だなんて知りませんでした。 

アルパカ
この事実を知らなかったのは、君たちだけではないみたいだよ。

研究者たちは次に、名門カリフォルニア大学ロサンゼルス校の学生を対象に、10種類の動物に関する知識をためしました。

これらの動物はすべて(種によってはある地域で)、絶滅の危険性があるとされています。

しかし回答を集計すると、絶滅の危険性はないと考えている大学生が多かったのです。

ホッキョクグマ、トラ、パンダの危機的状況は割と多くの学生に認知されていましたが、キリンやライオン、ヒョウについては、半分以上の学生が絶滅の危険性を知りませんでした。

高度な教育を受けている大学生でさえこのような状況ですから、一般の人たちの野生動物に関する知識がいかに乏しいかは、推して知るべしということになるでしょう。

野生動物の保全は社会全体で取り組むべき問題ですから、人々の知識のなさは動物たちにとって危機的状況と言えるでしょう。

ぶた
人気はあるのに、大変な状況をわかってもらえないのか…

うし
どうして認識にこんなにもギャップがあるんでしょうね?

アルパカ
研究者たちは、その点についても分析しているよ。

次に研究者たちは、人々が日々の生活でどのくらい動物を目にしているのか調べました。

「目にしている」というのは、本物の動物のことではなく、アニメのキャラクターやぬいぐるみなどのおもちゃ、企業のロゴなどについて調査したのです。

その結果、次のような結果が浮かび上がってきました。

  • アメリカのアマゾンで販売している動物のおもちゃのうち、テディベアを除くと6%が、先ほどの人気動物10種だった。
  • 2010年に「キリンのソフィー」のおもちゃはフランスで80万個も売れたが、これはアフリカに実際に生息しているキリンの数の8倍以上の数だった。
  • 研究に協力したあるボランティアの人は、テレビや本、雑誌や企業のロゴなどで、1日平均4回もライオンを目にした。このペースは、現在西アフリカに生息しているライオン数の2~3倍の数を毎年目撃することに匹敵する。

このような例をあげて、人々が「バーチャルな」動物に日々触れながら生きているために、野生にも十分な個体数がいると錯覚しているのではないか、と研究者たちは指摘しています。

このような錯覚が本当に存在するとすれば、野生動物の保全という観点からは有害な社会現象です。

キリンやライオンが自分たちの「肖像権」を主張しているわけではなく、企業は「無料で」動物たちを利用できるため、動物のキャラクターやロゴを使用している会社は、野生動物の保全にいくらかの寄付をすべきだ、と研究者たちは提言しています。

うし
企業は寄付なんてしたくないんじゃないのかな… 

アルパカ
野生動物の保全に熱心であるという印象を消費者に持ってもらうことによって、イメージアップになり、結局はもうけにつなげられるかもしれないよ。

ぶた
そういえば、このサイトも動物を使っていますね。
僕たちもお金もらえるかな?

アルパカ
そんなことを期待する前に、まずは勉強だね!

 

参考文献
Courchamp et al. 2018 PLoS Biology 16(4): e20003997