8時間しか寝ていないんですよ。
野生動物の睡眠時間はもっと少ないぞ。
実際には、何時間くらい寝ているんでしょうね?
ぶたくん、知りたいかい?
とにかく、寝ることには興味があるんだね。
じゃあ、アルパカ先輩に訊いてみよう。
南アフリカのウィットウォーターズランド大学を中心とした研究グループは、小型の記録計を使って、ボツワナ、チョベ国立公園に住む野生のアフリカゾウの睡眠を記録することにチャレンジしました。
これまで、ゾウの睡眠の研究は、主にサーカスや動物園で飼育されているゾウの観察によって行われてきましたが、それでは野生のゾウの睡眠を観察したとは言えません。
また、実際に野生のゾウを追いかけ続けるのは、非常に大変ですし、夜になると観察が難しくなります。
そこで研究グループは、小型の記録計を野生のゾウに装着し、睡眠を記録するという方法を考え出しました。
ゾウの鼻に付けた記録計は、人間の睡眠計測にも使われるもので、1分間ごとの体の動きを、「動いていたか」「止まっていたか」で記録・蓄積するものです。
鼻に記録計を取り付けた理由は、起きているときのゾウは、常に鼻をせわしなく動かしていることがわかっているからです。
つまり、鼻の運動が止まっているということは、睡眠状態にある可能性が高いということが推測できるのです。
また、首には、GPSが内蔵された首輪を装着し、ゾウが国立公園のどこにいるのかを追跡できるようにしました。
この首輪にはさらに「加速度計」という装置がついており、ゾウが立っているのか、寝転がっているのかなど、姿勢の変化を記録できるようになっています。
記録計をつけたのは、2頭のメスのアフリカゾウで、推定された年齢はそれぞれ30歳と37歳でした。
この方法は、睡眠を直接計測しているわけではないから、実際に計測されたのは「睡眠と推測される時間」なんだ。「休息時間」と言った方がいいかもしれない。だけど、野生動物の睡眠を直接測るのは技術的にはとても難しいから、人間たちがこうやって調べてくれるのは、非常に助かるね。
約40日の記録期間のあと回収した記録計から、野生のゾウのリアルな睡眠の様子が浮かび上がってきました。
まず、データから明らかになったのは、野生のゾウの睡眠時間は非常に短いということです。
毎晩の睡眠時間は、平均すると2時間ほどで、私たち人間と比べると、かなり短時間しか眠らないということがわかりました。
飼育されているゾウを観察した過去の研究と比較しても、睡眠時間はやや短い傾向にあり、サバンナで寝ているゾウは、落ち着いて寝られない状況にあるのかもしれません。
さらに、姿勢の変化を記録したデータからは、横になって寝るよりも、立ったまま寝ている時間の方が多いことが推測されました。
また、非常に面白いことに、一睡もせずに動き回っている夜があることも記録されていました。
驚くべきことに、次の日夜が明けても歩き続け、一晩で30kmも移動した日があったようです。
どうしてこのような眠れない夜があるのか、実際に観察しないことにはわかりませんが、研究グループは、可能性として次の3つの理由を挙げています。
- ライオンの群れによる襲撃
チョベ国立公園では、ライオンの群れが若いオスのゾウを捕食する例が報告されています。今回睡眠データを取得したゾウは、群れを率いるリーダー格のメスですから、群れにいる若いオスを守るため、長い距離を一緒に逃げたのかもしれません。
- ヒトによる密漁
悲しいことに、アフリカでは象牙を目的とした密漁が絶えません。密漁者に襲われたために夜通し逃げていた可能性も否定できません。
- マスト期のオスの登場
成熟したオスは、普段メスの群れから離れて生活していますが、ホルモン濃度の変化で「マスト(musth)」と呼ばれる状態になることがあります。この時期のオスは、メスを求めて非常に攻撃的になるため、リーダーのメスは、群れを安全な場所に率いていたのかもしれません。
人間たちには、ぜひもっと調べてもらいたいね!
参考文献
Gravett et al. 2017 PLoS ONE 12(3): e0171903