でも他の動物は、どうなんだろうか?
今回は、オスとメスの渡りの違いについて調べた最新の研究を紹介するよ。
大空を飛んで、遠くの国へと旅をする渡り鳥。
彼らの旅路を、科学の力で追いかけようとする研究者たちがいます。
ベルギーのアントワープ大学を中心としたヨーロッパの研究チームは、ニシセグロカモメの渡りの経路をGPSで追跡することに成功しました。
このカモメは、ベルギーやオランダなどの海岸沿いなど北海の南東部で繁殖を行い、冬が近づくと南へと移動して寒い季節をしのぎます。
越冬地は個体ごとに大きくばらついていて、北フランスからイギリス南部といった比較的近い場所から、遠いところではアフリカまで旅をするという研究報告がありました。
今回紹介する研究では、GPS機器を利用して、渡りの様子をさらに高精細に明らかにしようという試みがなされたのです。
研究チームは、ベルギーとオランダの3ヶ所の営巣地でカモメを捕まえ、GPS発信機を装着しました。
このGPS発信機は、太陽光発電で電気を得ることができ、地上とデータ送受信ができるハイテクなものです。
2013年から2017年の間に集めたデータは、オス22羽、メス26羽分になり、解析によって、彼らの旅の奇跡が鮮明に浮かび上がってきました。
彼らが、思いおもいに旅立っていった国は、イギリス、フランス、スペインやポルトガルといったヨーロッパの国々だけでなく、モロッコ、西サハラ、モーリタニア、果てはセネガルといったアフリカ西岸の国々にまでおよび、それぞれの冬を過ごしていたのです。
次に研究者たちは、オスとメスで渡りのデータに違いがないか調べました。
南から北へと、繁殖地に移動する春の渡りでは、オスとメスは同じ時期に越冬地を出発して、繁殖地への到着時期もほぼ同じであることがわかりました。
しかし、逆に繁殖地から越冬地に向かう秋の渡りでは、オスとメスの移動に違いが見られたのです。
繁殖地を旅立つタイミングはほぼ同時であったにも関わらず、越冬地への到着はメスの方がオスよりも15日程度遅かったのです。
買い物でもしているのかな?
「何をしていたか」はわからないけれど、「どこにいたか」はわかるからね。
さらに高精細GPSのデータを解析していくと、メスたちの時間の過ごし方が見えてきました。
カモメたちが秋の渡りを始めるのは、早い個体で7月から。
この約1ヶ月前から渡り真っ最中の9~10月の間まで、メスはほとんどの時間を農業地帯で過ごしていたのです。
普段カモメは農地だけでなく、ある時は海や川の近くに、またある時は都市部へと、多様な環境を行き来しています。
なのに、どうしてこの時期(秋の渡りの前から渡りの間)だけ、農地に入り浸っているのでしょうか?
研究者たちはこの理由を、大量のエネルギーが必要になる時期だからだと推測しています。
渡りという長距離移動はもちろんのことですが、換羽とも重なる時期だからです。
換羽とは羽が生え換わることで、毎年決まった時期に古い羽が抜け落ち、新しい羽が生えてくる現象のことです。
このプロセスには相当のエネルギーを消費することがわかっているので、農地にあるエサ(カモメは雑食で、昆虫や植物の種なども食べることがわかっています)をモリモリと食べてエネルギーを蓄えているのではないか、と考えたのです。
しかし、これだけでは説明がつかないことがあります。
どうして、オスとメスが違う場所にいるのか、という点です。
オスのデータの詳細な解析によると、この時期のオスは農地よりもむしろ海の近くで時間を過ごしていることがわかりました。
カモメといえば確かに、海の近くにいるイメージが強いのではないでしょうか。
彼らが海の近くで狙っているのは、漁師さんたちが棄てた魚です。
魚は栄養たっぷりで、エネルギーをたくさん必要とする渡りの前には最適のエサです。
しかし、価値あるものは奪い合いになるのが常ですから、魚をゲットするためには他のカモメや他の鳥たちと競争しなければなりません。
体格を考えるとこの競争に勝てるのはオスだけで、越冬地まで旅するための十分なエネルギーを蓄えられるため、メスよりも先に到着するのではないかと、研究者たちは考えました。
一方でメスたちは、喧嘩せずに、ゆっくり食事をしながら旅を続けるという選択をしたのです。
結果として、越冬地への到着はオスより遅れるのです。
参考文献
Baert et al. 2018 Scientific Reports 8: 5391