「進化心理学」とは、人間の「心」も動物の1つの特徴である、と考える学問のことです。
つまり、キリンの長い首や、鳥の翼と同じように、人間の心も進化してきたと考えるのです。
動物の特徴を進化させるみなもとは、「環境」や「ライフスタイル」です。
高い所の葉を食べた方が生存に有利な環境であれば、長い首が進化するでしょう。
また、大空の中で暮らすライフスタイルの動物では、巧みな飛翔能力がどんどん進化していくはずです。
このような例と同じように、人間の心も「ホモ・サピエンス」という動物の住む環境やライフスタイルに合わせて進化してきたはずだ、と考えられるのです。
では、人間の心を進化させた、「ホモ・サピエンス」特有のライフスタイルとは、どのようなものなのでしょうか?
現代を生きている「ヒト」という動物は、およそ20万年前に生まれたと考えられています。
そのころの人間は、主に木の実を集めたり、動物を狩ったりという、狩猟・採集中心のライフスタイルを送っていました。
このような生活に適した形で、人間の心も進化したと仮定するのが、「進化心理学」なのです。
心の機能の1つは、「行動」を変化させることです。
心がウキウキしている時は、誰でも動き回りたくなりますね。
恐怖を感じた時には、何かの陰に隠れようとします。
これはかなりわかりやすい例ですが、ほかにも生き残るためであったり、あるいは繁殖(結婚)を成功させるようにはたらいてきた「心の機能」が、現代の人間にも受け継がれていると考えられているのです。
初期のホモ・サピエンスが生きていた社会は、多くの人との出会いのある密集したものではなく、家族単位で動物を協力して捕まえたり、集めた木の実を融通し合うような、小さな社会だったでしょう。
ですが、約1万年前、人間のライフスタイルが大きく変化しました。
農耕が始まったのです。
作物を育てるには、河川から水を引いたり、収穫を手分けしたりする必要が出てきます。
そのような大規模な仕事をするためには、どうしても「リーダー」の存在が必要になってくるのです。
しかし、狩猟・採集のために進化してきた人間の心は、そんなにすぐに、農耕のための集団生活に適応できるでしょうか?
生物の進化は非常に長い年月を要するプロセスであり、数万年の単位ですぐに進化は起きませんから、「進化」と「ライフスタイルの変化」のギャップによって、心の問題が生じることがあるかもしれません。
これを考えていくのが、進化心理学なのです。
参考文献
Li et al. Current Directions in Psychological Science, 2018, 27(1): 38-44.
Brenner et al. Journal of Evolutionary Medicine, 2015, 3: 235885.